指先からwas唇からlove【再公開】
階段を降りると、手すりによりかかってスマホを見つめる海也の姿があった。
直接、私に連絡してこなかったのは、やっぱり躊躇いがあったからだろうか?
私の影にハッとして上を見上げる。
その目は、昔と変わらず真っ直ぐでキレイだった。
海也……変わってない。
「おめでとう…」
目が合ってすぐに、涙で濡れた顔を両手で隠した。
「うん……てか、相変わらず恥ずかしがりやなのな!」
それを海也が掴んで、私の顔を覗こうとする。
「いや。見ないで」
既に感涙してる恥ずかしい顔でそっぽを向く。
せっかく会えたのに、我ながら子供だと思った。
「見るよ、なんのために、俺ここに来たと思ってんの?」
「……え、走るためでしょ?」
全国大会で優勝決めるためでしょ?
「そうだけど、それだけじゃない」
私の手を掴む海也は、更にぎゅっと力を込めた。
「三年前、自力で会えるようになったら会いたいって俺、言ったじゃん」
……覚えてるよ。
「……うん、言ったね」
今でも耳に残ってる。
期待していたわけじゃないけれど、
忘れられなかった。
だから私、
誰にも恋してこなかった。
「全国大会が16年ぶりに長崎県で開催されるって知って、それからまずは県大で優勝しなきゃって、ガムシャラに走ってた」
海也以外、誰も眼に入らなかった。
海也だけしか、好きになれなかった。