指先からwas唇からlove【再公開】
「おい、海也、もうそこ退けよ」
英語の授業が終わり、ベルは鳴ったのに、海也は一ノ瀬くんの席から離れようとしない。
「ここ、気に入ったから、今日だけ代わって」
「はぁ?!なにメンドクサイ事いってんだよ?」
机に伏して居眠りしようとする海也を、一ノ瀬くんがイラッとした顔でドつく。
結構、力入ってたみたいに見えた。
海也は、顔をゆっくり上げて一ノ瀬くんを睨みつける。
「別にいいじゃん、一日くらい。それともなに? お前、緒先の彼氏なの?」
「はぁっ?!」
ちょっ、止めて。そういうの。
一ノ瀬くんが顔を赤くして、とてもムカついてるのが分かった。
「そぉじゃなくて、机の中とかも出さなきゃいけないし、勝手に代わったら担任がうるさいっての!」
そして、周りの目も、一斉にここに集中。
やだ。
手は自然と前髪をつかみ、必死に顔を隠そうとする。
小学校の頃からついた、へんな癖……。
「……うるさいのはお前じゃん、もういいよ。
何気にこの席が気に入っただけだから」
海也は、そのまま、自分の席ではなく教室を出てどこかへ行ってしまった。
「……なんだよ、あいつ。気まぐれなやつ」
そう、
その気まぐれさが、また、私の心臓を痛くする。
失恋したはずなのに、海也くんの好きな人が分からないから、
実感できないだけじゃなくて、変に期待してきまう。
きまぐれで、罪な人だと思う……。