指先からwas唇からlove【再公開】
ホッとしたのと、急に寒く寂しくなったのが入り混じって、玄関へ向かっていく海也をソファーにへたりこんで見送る私。
ヤバい……。
手が震えてる。
あ、あのひと。
一体、なにしようとした?
「あ、あれ? 緒先先輩も来てるんですか?!」
リビングに入ってきたのは、亜美ちゃんと、
「お邪魔します、お母さんまだ仕事から帰ってないんでしょ?
亜美から聞いて、お見舞いに来たの」
亜美ちゃんのお母さん? らしき女性。
若い。
うちのお母さんよりずっと。
亜美ちゃんに似て、目が大きくて美人さんだ。
「……見舞いって、指ケガしただけだよ」
海也は、二人の訪問にちょっと迷惑そうな顔をしている。
「でも、亜美のせいでケガしたんでしょ?」
亜美ちゃんのお母さんは、紙袋からプラスチックの容器を取り出して、
「うちのオカズ、ハンバークと肉じゃが少ないけど食べて」
それをテーブルに並べて置いた。
そして、私の方を見て、にこっと笑った。
「転校生の緒先さん? 亜美が良く話してる子よね」
「え」
「もー、お母さん余計な事言わないでいいって!おばさんいないんだから、早く帰ろうよ」
そんな優しそうなおばさんの手を引っ張って、
「お邪魔しましたー、海也くん、緒先先輩にあんまりエッチなことしたらダメだからねっ!」
急いで退散しようとする。
「あ、私も帰るよ」
だって、これ以上ここにいたら……
パタン……と、一足先に玄関の扉が閉まる音がして、そして、
海也に手を掴まれた。