指先からwas唇からlove【再公開】
体育より音楽は苦手かもしれない。
特にリコーダーとか楽器類。
「この間分けたパート別に吹いてくださいねーこの曲は今年の音楽祭の課題曲ですから!」
若い女の先生は生徒に舐められてるのか、誰も話聞いてなくて、先生のピアノ演奏にあわせてリコーダーを吹かなきゃいけないのに、誰も吹いてない。
真面目な生徒が数人だけ。
微かに笛の音色が聞こえてくる。
苦手だし、まだ楽譜も覚えてない私は、取敢えず手に持って吹く素振りを見せていた。
「緒先さん、無理して吹かなくていいんだよ」
すると、隣の、あんまり口をきいたことのない男子から声をかけられた。
「無理してないよ」
ちゃんと吹きたいけど、指が追い付かない。
「音楽祭もさ、うちの学校、だいだい市の中じゃ最下位でさ!やっても意味ねーの。
だから真面目にやる奴なんておらんよ」
「……」
というか、あんまり受験に関係ないから皆真剣にやらないんじゃないの?
そう思ったけど、口には出さないでおぼつかない指でリコーダーの穴を押さえていく。
少し、覚えてきた。
「緒先さん、音楽も得意みたいだね、ちょ、俺にリコーダー教えてよ」
「え」
得意なものなんて何もないのに、誤解されてる?
返事に困っているうちに、
「貸して、俺、忘れたから」
隣の男子にリコーダーを取り上げられてしまう。