指先からwas唇からlove【再公開】
「貸してって……」
まさか。
「あ、渡辺! なにお前、緒先さんの笛奪ってるんだよっ?!」
「へへへ」
周りの男子が気が付いて囃し立てると、
「返し……?!」
そのまま調子に乗った渡辺くんは、私のリコーダーを迷うことなく口に含んでしまった。
「!!」
「わーっ! 渡辺、さいってぇー」
「キモーイ!!」
更に女子まで黄色い声で騒ぐから、授業は完全に中断。
「皆、席についてっ! 吹けなくてもちゃんと指、動かしてっ!」
泣きそうな女の先生の声も、
「イエーイ、緒先さんと間接KISS!!」
「マジイカれてる、こいつ!」
「な、なんの味した? 匂いはっ?!」
面白がる皆の声にかき消されて、私は先生からも睨まれていた。
……私。
何もしてない。
「緒先さんといえども、普通に唾液の匂いしたけどなっ!」
デリカシーゼロの渡辺くんの発言に、もう、死にたいくらい恥ずかしくなって、顔が火照るとともに、瞼が一気に熱くなった。
「貸してかしてっ!匂い嗅がせて!」
悪ふざけ過ぎる他の男子が私のリコーダーを渡辺くんから取り上げようとしたその時、
「もう、やめろって!」
変なテンションになった音楽室に、一ノ瀬くんがカツを入れた。
「緒先さんが大人しいからってやり過ぎだよ」