指先からwas唇からlove【再公開】

「貸してって……」

まさか。


「あ、渡辺! なにお前、緒先さんの笛奪ってるんだよっ?!」


「へへへ」


周りの男子が気が付いて囃し立てると、

「返し……?!」

そのまま調子に乗った渡辺くんは、私のリコーダーを迷うことなく口に含んでしまった。


「!!」



「わーっ! 渡辺、さいってぇー」

「キモーイ!!」


更に女子まで黄色い声で騒ぐから、授業は完全に中断。


「皆、席についてっ! 吹けなくてもちゃんと指、動かしてっ!」



泣きそうな女の先生の声も、


「イエーイ、緒先さんと間接KISS!!」

「マジイカれてる、こいつ!」

「な、なんの味した? 匂いはっ?!」


面白がる皆の声にかき消されて、私は先生からも睨まれていた。


……私。


何もしてない。



「緒先さんといえども、普通に唾液の匂いしたけどなっ!」



デリカシーゼロの渡辺くんの発言に、もう、死にたいくらい恥ずかしくなって、顔が火照るとともに、瞼が一気に熱くなった。



「貸してかしてっ!匂い嗅がせて!」


悪ふざけ過ぎる他の男子が私のリコーダーを渡辺くんから取り上げようとしたその時、






「もう、やめろって!」



変なテンションになった音楽室に、一ノ瀬くんがカツを入れた。




「緒先さんが大人しいからってやり過ぎだよ」




< 84 / 287 >

この作品をシェア

pagetop