指先からwas唇からlove【再公開】
静まり返る教室。
いつも先頭きって冗談言う一ノ瀬くんが、渡辺くんからリコーダーを取りあげて、
「これ、俺が後で洗っとくから」
それで、渡辺くんの頭を軽くごついていた。
「な、……なんだよ、皆で盛り上がってたのに」
「小学生か」
離れていた皆も席に戻って、ほっとした先生が授業を再開しても、
私の中の屈辱感は直ぐには消えてくれなくて、
熱くなっていた瞼から自然と滴が落ちてきてしまった。
前髪で隠そうとしても、頬の部分までは届かない。
「あーあ、緒先さん泣いちゃった」
「フツー、泣く?」
「一ノ瀬くんに感謝の涙じゃ?」
冷たい女子の声が、更に私の背中を縮ませて、
それからは、先生の声も、ピアノの演奏も耳に入ってはこなかった。
……音楽、一番、嫌いな教科になりそう……。