パンプスとスニーカー
 「は?」




 ステーキどころか、ハンバーグに例えるのもおこがましい。

 と、いうか。




 「いくらなんでも、食いものに例えるのはひでぇんじゃねぇの?」




 フェミニスト団体から集団で抗議を受けそうだ。

 しかし、そんな武尊の珍しくもまっとうな感慨も、




 「外見はガチガチに固いけど、中はジューシー。焼き方次第でいくらでも美味くなる」




 華麗にスルーされた。


 そして、パクリと勝手に武尊の皿から、壮太も一切れを奪って口に入れてしまう。


 が―――。




 「こいつはマジで固くマズイな」

 「だろ?調理師代えたって聞いて注文してみたけど、もともとの材料がダメならやっぱダメダメだよな」

 「…こういうのでも、叩いたり、ビールや玉ねぎ汁に漬けたり、工夫次第で柔らかくなるんだよ。手抜きしすぎなだけ」

 「よくお前、そんな知識持ってるよ」




 半ば呆れた。


 壮太の家も会計事務所を経営していて、とても安い肉云々を言うような家計状況のお家柄ではない。




 「今、料理研究家のお姉さまと付き合っててさ」

 「ああ、そういうこと」



 あっさり納得する。




 「そういえば、お前の方はどうしたよ?」

 「ん?」




 せっかく注文したが、武尊はさっさとステーキには見切りをつけて、付け合せのジャガイモを口に入れつつ、やっぱり違うものをもう一つ注文するかとしばし悩む。


 …さすがに、今から外の店に行ってる時間ないしな。


 基本的に世間のイメージとは裏腹に、法学部の学生たちはかなり個人の自主性を尊重されていて、自分たちが授業を受けるかどうかの可否は、学生個々人に任せられてしまっている。


 一般教養を除けば、レポートはほぼないようなものだし、出席が必須ではない授業も多い。


 しょせん、法学部の存在価値=司法試験の合格なのだ。


 だから本来勉強になど打ち込みたいタイプではない武尊や壮太のような生徒も出席率が高い。


 そもそも超難関の法学部に入るような生徒で、『なんとなく』学生時代を過ごす生徒などほとんどいないに等しかった。


 さすがの壮太も声を潜める。




 「お前の親父さんとこで使ってる医者の奥さん。某有名企業の元受付嬢とかいう女」





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