パンプスとスニーカー
 店を出るとすっかり外は夜の景色に様変わりしていて、僅かに残っていた夕日の名残もすでにない。


 梅も咲き始めそろそろ桜の季節も近いとはいえ、まだまだ寒さも厳しく、横に並んで歩くひまりの吐く息も白い。


 実際、寒いのか、手袋をしていない手を口元にあて、ハァッと息を吹きかけている。


 わりと薄手のブルゾンにマフラーを巻いたスタイルは、いかにも活動的なひまりにはよく似合っているが、覗いているほっそりとした首筋がどこか武尊には寒々しく感じた。




 「ダウンくらい持ってなかったの?」




 よけいなお世話だとは思いつつ、つい聞いてしまう。


 ムッとした顔に、やはり失言だったかと苦笑した。




 「ごめん、バカにしたつもりじゃなかったんだけど」

 「いいよ、あたしだって思うもん。これはまあ、たまたま間が悪かったっていうかさ、火事にあった日はわりと暖かったんだよね。だからこれで間にあったのが裏目に出ちゃった」

 「本当に着の身着のままだったんだな」

 「そうだね」




 武尊には経験がないことだが、身近に頼れる家族もいない環境でそうした出来事が、どれだけ心細いものなのか想像に難くない。


 …それなのに、こんな細っこい女の子が一人で頑張ってるんだもんな。





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