パンプスとスニーカー
 ひまりとこうして身近に接するようになって、何度となく湧き上がった感心とも尊敬ともつかない感慨。


 そこには、ホンの少しの悔しさも含まれていたかもしれない。




 「あのさ、やっぱりさっきのご飯代、ちゃんとあたしも払うよ」




 またもやぶり返された話題に、多少うんざりしつつもその生真面目さを好ましくも感じる。




 「いいって、さっきも言ったじゃん。バイト代は結局受け取れないって言うから、衣食住のうちの食と住は俺が持つって」

 「…食と住は、って、それだけじゃないじゃない。武尊のお祖母さんやお姉さんにはあんなものまで用意してもらっちゃって」




 あんなもの…というのは、外出する少し前、武尊の部屋に宅配で送られてきたもので、どうやら用意周到に祖母がひまりの細々とした生活用品を昨晩のうちに手配したらしかった。


 …大した入れ込みようだよな。


 それこそ感心してしまう。


 それでお堅いひまりも落ちた。


 武尊の誘いには難色を示していたひまりだったが、彼女も相当なお人好しなのだろう。


 …そりゃそうだよな。


 多少の打算もあったかもしれなかったけれど、ひまりが武尊に協力してくれたのも、元はといえば、武尊の身の上への同情が大半だったのだと彼にも当然わかっていた。


 とはいえ、ひまりが目指している弁護士は一般のイメージとは裏腹に、人情家ではとてもやっていける職業ではない。




 「どうして、弁護士を目指してるの?」





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