パンプスとスニーカー
 「え?」




 他人のことになど興味がなかった。


 それでも彼女の夢のきっかけを聞いてみたい気がする。


 が、困った顔をされてしまい、まずいことを聞いてしまったことはすぐに気がついた。




 「あ、悪い。いいよ、答えなくて」

 「…あ」

 「人それぞれだよな」




 実際、武尊自身も聞かれてこうだと答えられる確かな志などなく決めた進路だったのだ。




 「どのみち、コートの一着もないと不便だろ?俺が買ってあげる…って言っても遠慮しそうだから、出世払いってことで貸してあげるから一着買いなよ。今ならちょうど季節変わりでセールしてる時期だし」




 あえて話題を変えた武尊の顔をジッと見て、ひまりが小さく微笑む。




 「ありがと、どうしてもキツかったらお願いするね。…さっきのね、大して理由らしい理由があったってわけでもないんだ」

 「…え?」

 「実はさ、家を出ていったうちの母も看護師でね」

 「………」




 突然始まったひまりの身の上話に、武尊が目を瞬かせる。


 しかし、それが武尊の聞いた『弁護士を目指す』理由であることにすぐに思い至った。




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