パンプスとスニーカー
 「それだけに仕事が忙しくて、父とすれ違うことが多かったみたいなの」

 「……へぇ」 

 「で、母に家にいて欲しかった父が、かねがね‘女は手に職なんてなくてもいい。結婚までの腰掛けで十分だって’って、口煩く言ってたものだから、その反面教師っていうのかな。それならよけいにステータスとか、技能が必要な職業目指そうって思ったんだよね。母と同じ看護師って道もありかなとか、思ったりもしたんだけど」




 意外な理由。


 父親に反発して…というのはありがちかもしれなかったが、それで‘弁護士’というほどには容易い道ではなかったはずだ。


 …なんか、もっとすごい理由…弁護士にこだわる理由とかあるのかと思ったけど。


 看護師の道が弁護士に比べて楽だとまでは言わないが、少なくてもここまで苦労することもなかったのではないだろうか。




 「それに…」

 「…………」

 「両親が離婚した時にね」

 「うん?」

 「…かなり揉めたみたいで」




 見下ろすひまりの顔は、俯いていて表情が見えなかったが、今だにその過去を引きずっているようにも思えて、どこか寂しげだった。




 「双方弁護士を立てて、親権まで争う泥沼でね…なんていうか、たぶん母はともかく、父の方は離婚したくなかったんだと思う。でも、母方の弁護士が話し合う余地を作ってくれなかったんだよね」





< 144 / 262 >

この作品をシェア

pagetop