パンプスとスニーカー
 「うーん、出て行って以来会ってない。っていうか、そういう取り決めになっちゃったらしいから」

 「そっか」




 ひまりも同情されたいわけではないだろう。


 よくあることだと連呼しているところに、その心情が現れているし、武尊にしても実母を幼い頃に亡くしたことで、他人にどうのと同情されたいと思ったことがなかった。


 …むしろごめんだよな。




 「あ、でも、あたしが目指してるのは離婚弁護みたいな法廷弁護士じゃなくって、渉外弁護士や顧問弁護士とかで、資格を活かしてどこかの大きな企業に勤められればそれが一番なんだけどね」

 「なるほど」




 たしかに法廷で凌ぎを削り、時には依頼人の利益のために人情などないと、良心に悖ることをしてのけなければならない場合もある職務よりも、ひまりにはよほど向いてる気がした。




 「武尊も弁護士?」

 「うーん、どうだろ。まだ決めてない」




 実家的には病院経営にも携われる弁護士を目指してくれれば…と望まれていたが、祖母の方針でそこらへんはゴリ押しされているわけではなかった。




 「藤宮君は検察庁を希望してるんだっけ?」

 「ああ、壮太は…」




 話題が自分たちのことから友人たちへと移り始める。


 しかし、




 「わああああ―――ッ」




 歩道橋の階段の方から悲鳴が上がり、続いてドッと悲鳴や怒号があがって、ひまりと武尊もそちらへと気を取られた。





< 146 / 262 >

この作品をシェア

pagetop