パンプスとスニーカー
 「な、なに?」

 「…いや」




 もちろん聞かれた武尊だとて、事情などわかりようもない。


 が、




 「階段から人が落ちたぞっ!!」

 「救急車―――ッ」




 やがてざわめく人々の輪の方から声が上がって、事情が知れた。


 立ち止まって騒動の中心へと注目する人、注視しつつも通り過ぎる人々の間で、ひまりと武尊も顔を見合わせ相談しあう。




 「放っておいて、もう行こうぜ」

 「見に行こう」




 真逆の意思表示。




 「どうせ、酔っ払いだろ?あれだけ人がいるんだ。誰かしら救急車に連絡してるさ」

 「それもそうかもしれないけど…」




 先を急ごうとしている武尊とは裏腹に、どこまでも心残りなのかひまりが渋る。


 が、武尊には武尊の事情がある。


 …冗談じゃない。


 面倒に関わり合いたくない、という以上の事情。




 「やっぱり、様子を見よう」

 「は?野次馬する気かよ」

 「じゃなくって、昨日車を置いてきたのって、あっちのショップ街の方でしょ?どのみち対岸側には渡らないといけないんだし、移動がてら様子見をして何か手助けできることがあれば協力すべきだよ」





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