パンプスとスニーカー
 貧血症状よりも、そっちの方が今の武尊にとっては耐え難かった。


 呆れているのか、ひまりも特にそれ以上声をかけてこない。


 と、思ったら、




 「武尊、一口でいいからこれ飲んで?」




 そろそろとわずかに顔を上げ、顔を覆っていた手の隙間の向こう、本当に心配そうな顔をしたひまりが、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出している。




 「それ」

 「今、そこの自販機で買ってきたの。熱中症とかが原因の貧血だったら、スポーツドリンクの方がいいと思うけど、そういうのじゃないから」

 「サンクス」




 素直に礼を言って受け取り、すでに口が緩められた蓋をとって一口口に含む。


 冷たい水分が体に染み入って、多少なり気分が晴れる気がした。


 ひまりもそれ以上特になにを言うでもなく、武尊の横に腰を下ろす。


 しばし…、互いに無言のまま、見るともなく道路を行き来する車のヘッドライトの流れを眺める。


 …今度は俺が身の上話する番だってか?





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