パンプスとスニーカー
 「マジ?」




 さすがに壮太も目を瞬かせる。


 先週のことを思い出すたびに、武尊の眉間にシワが増える気がした。




 「ガセだろ。避妊に失敗した覚えはねぇし、妊娠したっていうなら付き添うから、産婦人科受診しろっつーたら、全面拒否」

 「あららら」

 「なんか、最初の印象と全然違って粘着質?うんざりだわ」

 「…お前もたいがい鬼畜だねぇ」




 自業自得ではある。


 けれど、相手も最初は遊びだったはずなのだ。


 基本、面倒がイヤで彼氏持ちとは恋愛をしたことがない武尊だったが、不倫は今回初めてだった。


 相手の余裕のある割り切った態度にまさかこんなことになるなんて、というのが本当のところで騙された気さえする。




 「しっかし、女で失敗して、その舌の根も乾かないうちに悪名高い高崎嬢と同伴通学するかねぇ」

 「だから、同伴してねぇだろ?つーか、だからだよ」




 影で『クィーン・ビッチ』と言われる女だ。


 それこそ後腐れのない女だし、ラグビー部の彼氏の存在は気になるが、少なくても妙な勘違いをするような女ではないことは確か。




 「不倫の女に、ストーカーでもされてんの?」

 「……今のところは?」




 だが、あの剣幕ではそれも時間の問題か。


 武尊自身も問題の先送りかもしれないとは思ったものの、とりあえず世迷いごとを抜かす女を突っぱね、メール以外の着信拒否をしている。


 メールまで拒否すれば、それこそストーカーになられてしまいそうで、それが怖い。




 「いっそ、村尾さんに彼女のフリでもしてもらうか」

 「はあ?美紀?」

 「それか、けっこう俺も村尾さんのこと嫌いじゃないし、彼女、俺のことタイプだとか言ってたくらいだから本気で付き合うのも悪くないとか思わねぇ?」





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