パンプスとスニーカー
 ひまりが本当はどういうつもりだったのかはともかく、それでもさっき彼女がした話が誰にでも言い回るような類の話ではなかったのは武尊にもわかっている。


 それを彼にしたということの意味を考えれば、自分だけがだんまりを決め込むのはあまりに卑怯な気がした。


 そもそも、武尊が友達になろうと申し込んだのだ。


 ‘友達’にはさまざまな意味合いがあり、壮太にさえ話せないことがいくらでもある。

 それは壮太も同様だろう。


 だというのに昨日今日、‘友達宣言’しただけの、よく知りもしない女の子に何を話そうというのか。


 …あ、でも、昨日今日で、けっこういろいろ知っちゃったか。


 互いの家族構成だの、家庭の事情だのかなり深いことまであっという間に承知し合ってしまった仲とも言える。


 …ままよ。




 「俺…」




 武尊の独り言のような呟きに、ひまりがこちらへと顔を向けたのを横顔に感じる。


 視線を向けないまま、それでもなんとか次の言葉を絞り出す。




 「俺、血がダメなんだ」





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