パンプスとスニーカー
 「…………」

 「医者の息子のクセに、昔からなんでか血が怖くて、体が竦んで動けなくなる」




 医者になりたくなかったんじゃない。


 医者になれなかったのだ。


 …カッコつけて、粋がって、そのくせ、男のくせに血が怖いとかどんだけってヤツだよな。


 自嘲する。




 「ああ、そうなんだ。だから、医学部じゃなくって、法学部に?」

 「…ああ」




 ひまりの声に少しでも意外さや、…嘲る調子が含まれていたのなら、バレバレだろうと強がって冗談だとうそぶいただろう。


 だが、違った。


 特にその声音には、どんな感情も含まれず、ただ事実を事実と受け止め、どこまでも普通で平坦で、それがあえて作られた態度でも、今の武尊には救いだった。


 武尊の長年のコンプレックス。


 他人から見れば些細なことなのだとしても、武尊にとってはそうじゃない。


 ましてや、生まれた家の家業がそれを笑う事にはしてくれなかった。


 誰よりも医者になりたかった。


 祖母や父、兄たち、家族の期待に応えたかったのだ。


 なのに、どうしても克服できなかった。


 そんなことでグレるほどにはバカにはなれなかったし、そんな根性もなかったから、ちゃらんぽらんに、ただその日その日を適当に生きて楽しければそれでいい、そんな生き方で自分の痛みを誤魔化した。




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