パンプスとスニーカー
 「あのね、ホント、違うの。えっと、たしかに武尊のうちにお世話にはなってるんだけど」

 「武尊って、名前で呼び捨てにしてるんだ?」

 「…………はう」




 鋭い。


 言い募れば言い募るほど、ドツボにハマってゆく気がしてならない。


 しかし、ここでへこたれるわけにもいかないだろう。


 それでもなんとか納得してもらおうと口を開きかけ、ひまりは美紀の言葉に絶句した。




 「北条君は否定してなかったよ」

 「ええっ?」

 「まあ、肯定もしてなかったけど」

 「…………」

 「壮太と北条君が話してるのを小耳に挟んだ時は、なんの冗談かと思ったんだけどね」




 考えてみれば、今のひまりは武尊の恋人役を務めているのだ。


 あまりにおおっぴらに言い触れ回られるのも困るが、たしかに曖昧なままにするくらいが武尊の立場ならあたりまえのことなのかもしれなかった。


 …そうだよね。それに、異性と同居なんて、普通に考えたら友達だから、って理由より恋人と同棲してるっていう方が不自然じゃないか。


 沈黙してしまったひまりに何を思ったのか、美紀が親身に忠告してくれる。




 「こんなことよけいなお世話だとは思うし、いかにもラブラブな恋人たちに水を差すようなことあたしも言いたくないんだけどさ」





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