パンプスとスニーカー
 「ひま!」




 今や聞き慣れた低い声音の呼びかけに、キョロキョロと周囲を見回し、大して探す間もなくすぐにその二人組が目に付いた。




 「武尊」
 
 「こっち来なよ」




 言われる前に、ひまりも武尊を発見すると同時に歩み寄っている。




 「よ、ひまりちゃん」



 
 気安く呼びかけてくるのは壮太で、以前は普通に苗字呼びだったはずなのに、武尊が名前呼びにするせいか、壮太までふざけて名前呼びするようになってしまっていた。




 「ひまりちゃんって呼ぶのやめろよ」

 「なんでだよ。案外心の狭い男だな、お前」




 何度武尊がやめさせようとしても、この調子だ。


 ムッとする珍しい武尊の行動が面白くて、からかっているのは明らかだった。


 …なんか、武尊って意外にも弄られキャラなのかな?


 外では澄ました顔をしていても、姉の尻に引かれていたりする。




 「武尊、ホントに別にいいよ。あたしはなんて呼んでくれても気にしないし」

 「…キャラじゃないだろ」




 まあ今まではたしかにそうだったかもしれないが、自分が忌避していたわけではなく、周囲が遠慮していただけなのだ。


 …むしろ、距離感が縮まってる気がして嬉しいかも。


 武尊に名前呼びされた時には、初めての経験でかなり気恥しかったが、それもすっかり慣れたように思うし、そもそも壮太が気安く呼ぶ女の子をはひまりだけの話ではないので、そこに特別な意味を感じて勘違いしたりするほどひまりも自意識過剰ではなかった。


 …武尊だって普通に呼んでるじゃない。




 「それより藤宮君は、昼から授業なの?」

 「そ、午前は俺、ほとんど自主休講だからさ。ていうか、俺の隣にいる男も、つい先頃までそうだったはずなんだけどなぁ」




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