パンプスとスニーカー
 「あ~えっとぉ、でも」

 「3限、永瀬教授の講義休講になっただろ?」

 「え?そうなの?」

 「掲示板に張り出されてたぜ?」




 どうやらうっかり見逃してしまったらしい。


 永瀬教授の授業は松田と一緒だから、彼がそう言うのなら間違いないだろう。


 そうなると4限までポッカリと間が空いてしまうし、4限はひまりも元々欠席の予定だった。


 彼女はバイトと両立していたから、ケースバイケースでバイトを優先して授業をスキップしてしまうこともないではなかったのだ。




 「大学の近所で美味い店見つけたんだ。校内じゃないからちょっと忙しないかもしれないけど、さすがに4限までには戻れる範囲だからさ」

 「えっとね、どのみち4限は欠席する予定だったの。今日、隔週の家庭教師のバイトが入ってる日だから、4時には大学をでなければならなかったし」

 「なら楽勝じゃん。行こうぜ?」




 …どうしよう。


 行くか行かないかではなく、どう断りを入れようかと悩んでしまう。


 これがまだ数人で出かけようということならば、そんなに気負ったりはしないのだが、どうも松田の誘い方からして二人っきりな気がしたからだ。


 松田の気持ちには答えられない。


 それだけはわかってる。


 そうである以上、ひまりの性格からして、彼に気を持たせるマネをする気にはなれなかった。




 「武藤」




 バンッ。




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