パンプスとスニーカー
 「ええ~?武藤ッチ、マジで昨日ネットカフェに泊まったの?」

 「うん」




 軽い仮眠をとりはしたものの、やはり女一人、安心できる環境などではなくって、お腹が膨れたとたんに眠気と疲労を自覚する。




 「それ危ないんじゃないの?」

 「…まあ」




 わかってはいても背に腹は変えられなかった。


 たとえ一晩にせよ、ホテルに泊まるのもたった2万円の所持金。


 何日かかるかもわからない日数を、過ごさなければならないのだ。


 こんな時、現金主義、クレジットカードを作っていなかった自分が恨めしい。




 「なんで、連絡くれなかったのよ。一晩や二晩、泊めてあげたのに」

 「うーん、それはさすがにね」




 考えないではなかったけれど、彼氏と同棲している美紀のマンションに押しかけるのはかなり敷居が高かった。


 あとの友人たちは家族と暮らしてたりする人間ばかりだし、それでも数人アテがなくもなかったというのに、急だったこともあって昨日は皆都合がつかなかったのだ。




 「朱里とか、沢とか一人暮らしじゃなかったけ?」

 「戸川さん、今実家に帰省してるらしくて、1週間くらい田舎だって」

 「沢は?」

 「連絡つかなかった」




 なんなくその理由に美紀も思い当たる。




 「さては、オールナイトでどこぞのクラブかカラオケボックスかなんかで遊んでたわね」

 「たぶん」

 「沢、今日はまだ見かけないものね」




 もちろん、ひまりも予想済だ。




 「マルちゃんとこは?」

 「この間もお呼ばれして、連休中泊めてもらったばかりだし」

 「親と同居はやっぱ気兼ねするかぁ」





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