パンプスとスニーカー
 「あ、ううん、ありがと。実はまだ」

 「やっぱり?これ俺が入ってる講座ではかなりポピュラーで、わりと持ち歩いてるヤツも多いのに、ひまの蔵書にはないみたいだったからさ」

 「そうなの?よさそうだなって目を止めたことはあったんだけど、美杉教授が端折りすぎててさらうにはいいかもしれないけど、それくらいならしっかりとした資料を元に頭を強化すべきだって、わざわざ名指しで例に出してらしたから買うの控えたの」

 「ああ、美杉さんかぁ。たしかこの本の著書の遠上教授とは犬猿の仲だって、どっかで聞いたことあるよ。ぷっ、端折りすぎ…って、まあ、ある意味的確な指摘かもしれないけど、ある程度頭に入ってる人間には下手に分厚いやつよりざっとさらうだけで、必要箇所を復習できてちょうどいいよ」




 意外に武尊は知識の幅が広い。


 知識というか、雑学とでも言うべきか。


 当然のことながら、法律や学校の勉強、司法試験の予備知識的に関しては、学内でも俊英である特待生のひまりに及ぶものではないが、人脈を生かしたアレコレにえらく詳しい。


 生きることに器用というか、表面的にはそれなりに愛想もいいので、生徒たちにはともかくとして教授連には可愛がられているし、OB・在校生に関わらず先輩たちの中にも友人知人がいるようだ。


 ほとんどが、学内でもそれなりに名の知れた人物ばかりだったから、かなり打算的な付き合いなのかもしれなかったが、そうした生徒は珍しくはないし、武尊の場合は一方的に相手からなにかを引き出すような寄生ではなく、ギブ&テイクを心情にしていて、また悪意から人を陥れたり、あるいは人の足を引っ張って押しのけるようなマネをしなかったからわりに敵は少なかった。


 …こういうのって、末っ子気質っていうのかもなぁ。





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