パンプスとスニーカー
 基本、勉強を教えあうというスタンスの学術ではないが、それでも武尊と過ごす時間は極めて有意義で…楽しいものだった。


 勉強に‘楽しい’は、おかしいのかもしれない。


 けれど元々勉強が好きだからこそ、ひまりはこれまで優秀な成績を収め、維持し続けることができたのだ。


 互いに情報交換をひとしきり行った後は、武尊は武尊、ひまりはひまりで、参考書やスマホ片手に自分の勉強に没頭して、無言でいても気を遣う必要がないことも意外だった。


 最初一緒に図書館で勉強しようと言われて、さっさと飽きて立ち去ってくれるだけならまだしも、暇つぶしに構われたり延々と雑談される、または他へ行こうと誘われたらイヤだな、なんて思っていたのはとんだ失礼なことだったと反省することしきり。


 …偏見だったな。


 よくよく考えてみれば、たしかに武尊は特殊に真面目な生徒というわけではなかったけれど、常に必要最低限のことはこなしていて、教授連にも覚えがめでたいということはそれなりに成績もいいということなのだろう。


 法学部は遊んでいるだけの学生が楽に渡っていけるような甘い場所ではない。


 日本各地の秀才が集まって、さらに凌ぎを削っているようなところなのだ。


 またもついつい武尊の顔に見入ってしまっていたらしく、なにげなく顔をあげた武尊の視線とバチッと合ってしまって、バツの悪い思いに視線を反らして、俯く。


 少しだけ驚いたような顔をした武尊だったが、




 「なんか、さっきから俺の顔ばっか見てない?」




 悪戯っぽくクスリと笑った。




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