パンプスとスニーカー
 「え、ええっ?そ、そんなこと」




 …あるかもしれない。


 しかし、まさかそのまんま肯定するわけにもいかず、思いついたままに無難な答えを返す。




 「えっと、そのぅ、の、喉が乾かないかなぁとか思って…」

 「喉?」




 言ってみて、瞬時に後悔した。


 ランチを食べて、さっきの今で、特に暑いわけでもないのにそんなにすぐに喉が渇くはずもない。


 腕時計を確認した武尊が、目を瞬かせる。




 「えっとね、その…やっぱり、なんでもな…」

 「ああ、そういえばもう3時半近くか。ずいぶん頑張ったから、喉も渇くよな」

 「えっ!?もう3時半なのっ?」




 今度は逆に驚いたのはひまりの方だ。


 てっきりランチを食べてからそんなにまだ時間が経っていないと思っていたのに、集中しているうちに時間があっという間に過ぎていたらしい。


 一人の時にはよくあることで、そんな時のために携帯の目覚まし機能をバイブにして設定してあるくらいだ。


 …他の人の一緒にいるのに、全然気にならなかった。




 「出ようか?そろそろバイトの時間なんじゃない?」
 
 「あ、うん、そうだね」




 まだ時間的には30分以上余裕があるが、移動を考えたらもう出た方がいいのは確かだ。




 「バイト先まで俺が車で送ってあげるから、どこか喫茶でお茶でも飲んでいこうか?」





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