パンプスとスニーカー
 けっきょく武尊にコーヒーをご馳走になって、意外なほどの強引さにあたふたしているうちにバイト先にまで送られてしまった。


 けっしてひまりは流されるタチではなかったけれど、それでも彼のマンションに居候させてもらっている上に、あれこれ世話になっている。


 それ以上に、悪意のない親切を断るのは、基本お人好しの彼女には難易度が高かった。


 いかにも目的があって近づいてきたり、理不尽な相手にはいくらでも対抗することができても、武尊の好意がどこから来ているのかわからなくて困惑していたのが正直なところ。




 「じゃ、帰りも迎えに来るから」

 「ええっ!?いや、それこそそんなことしてもらったら悪いし、してもらう理由もないよ!」

 「俺がしたいだけ…それとも迷惑?」




 切なげに言われると、もうそれだけで言葉が詰まってしまう。




 「…ありがたいけど」

 「良かった。じゃ、あとでね」 

 「え…」





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