パンプスとスニーカー
 車の窓からひまりに手を振り、すでに武尊は車を発進させてしまっていた。


 気が付けばいつの間にか丸め込まれて、送迎決定。


 どうやって断ろうかと悩んでいる間に、押し切られてしまっていた。


 …び、美形って。


 たぶん武尊としては、その言葉の中身に大した意味合いなどないのだろうが、少し顔に筋肉を動かしただけで、相手にひどい罪悪感や好意を抱かせるのに絶大な効力を発揮していた。


 今までもハンサムとか、カッコイイとか言われる男性に出くわしたことがないわけではないが、それでも、特にそういう人種に興味がなかったひまりの周りにはいたことがない。


 そういう男たちは、大抵彼女のように勉強一辺倒で、洒落っ気も面白味もない女には興味がないものだ。


 あえて言えば、美形とは少し違うものの今時硬派な魅力がカッコイイと言われる松田や、誰にでも愛想のいい壮太とは、それなりに顔を合わせれば挨拶くらいは交わしているし話すこともある。


 けれど、それもせいぜい友達の範囲。


 美紀からは松田がひまりを好きなのだとリークされてしまってはいたが、まだ本人から告白されたわけでもなかったから、実際は勘違いだったということもありえた。


 …まさか武尊、本当にあたしのことが好きだとか?





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