パンプスとスニーカー
 なんだかんだとお世話になってるばかりか、送迎までしてもらって…。


 そのお礼にと出来る範囲で掃除をしたり、食事の支度をするようにしてたけれど、大学の噂では遊び人だと聞いていた武尊がまったく外泊をしなくなってしまった。


 それどころか、なぜかほとんど毎日、朝夕ひまりと一緒に食事をとっている。


 …いや、別にいいんだどね。


 なんだか本末転倒な気がする。




 「えっとさ、もしかして、あたしがここにご厄介になってるから遊びに行けないのかな?」

 「ん?」

 「…ほら、よくも知らない人を家に一人っきりで残すのがイヤだとか」

 「あ、そのパプリカ残すならちょうだい?」

 「え、あ、…うん」




 残すつもりだったわけではなかったけれど、つい苦手で最後の方まで残してしまっていたのを見咎められ、返事とほとんど同時にスッと箸が伸ばされる。


 ステディな関係でもないのに、自分の皿の食べ残しを突っつかれるのを、気恥ずかしいような複雑な気持ちで見守り、なんとはなしにその行方を眺めた。




 「苦手なら、最初から作らなきゃいいのに」




 ごもっとも。


 しかし、実はこのやや偏食気味のお坊ちゃまが、意外にもこの甘苦いピーマンをお好みのようなのだ。


 それでいてピーマンはあまり好きじゃないというのだから、ひまりにしてみれば武尊の感覚がよくわからない。




 「ひまはよく知らない人なんかじゃない。…友達だろ?」

 「…あ、まあ、そうだけど」

 「俺としてはもっと別の呼び方で呼ばれるのもやぶさかじゃないんだけどね」





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