パンプスとスニーカー
 「…け、牽制って」




 なんだか喉が渇く。


 真剣な顔の武尊にまるで告白されているようで、ドキドキ胸が高鳴って、どう言葉を返したらいいのかひまりにはわからなかった。


 …そんなわけないのに。


 それなのに…。


 そんな緊迫した時間がどれだけ経ったのか。


 5分?もしかしたら、ほんの一瞬の間だったのかもしれない。
 

 が、唇を舐めては視線を彷徨わせて、反応に困ってしまっているひまりを見かねたのだろう、武尊が小さく苦笑して話題を変えてくれる。




 「俺、もう食べ終わったし、そろそろ片付けしちゃうね」

 「え?あ…いいよ、あたしが片付けて置くから、そのままそこに置いておいて?」

 「そうはいかないでしょ。ひまが作ってくれたんだから、後片付けくらいは手伝わないとさ」

 「…でも」




 元々居候のお礼に…と始めた家事なのだ。


 武尊に手伝わせてしまっては本末転倒。


 さっさと立ち上がって、自分の皿ばかりか、空いた彼女の皿にまで武尊が手を伸ばしてくるのに慌てて立ち上がって、ひまりも皿へと手を伸ばす。




 「うきゃっ!?」




 偶然武尊が皿を掴んだタイミングで、彼の手を掴むようにして触れてしまった手の感触に動転して、ひまりが両手を万歳の状態に飛び退いた。


 一瞬、その珍妙な彼女の行動に武尊がキョトンとして、




 「ぷっ、な、なにその反応」




ケラケラ笑われしまう。


 自分の変な行動が恥ずかしくて…、でも、武尊の無邪気な笑顔が可愛くて、キュッとするような、初めての感情にひまりは戸惑ってしまっていた。


 …なんだか、胸がバクバクする。




*****




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