パンプスとスニーカー
 「もしかして、武藤ッチって、長期の休みにも実家に帰ってなかったりする?」

 「まあ」




 主にバイトに明け暮れる休みではある。




 「はあ~、どおりで武藤ッチって愛想も悪くないし、人見知りでもないのに、付き合いは良くないなあとは思ってたんだよね。それでもノート貸してくれたり、勉強教えてくれたりするから、ボッチってことはないけどさ」

 「はは…ちょっと、姑息だけど、そこは意識してたりするかな」

 「利用されることもあるじゃん?」




 それは仕方がないことだろう。


 ほとんど家とは没交渉状態で、ひとり暮らしの孤独は並大抵のことではない。


 せめて学校では居心地よく過ごしたかった。


 その処世術だったから、お互い様というところだし、こうして美紀のように何くれとなく良くしてくれる友達もいる。




 「でも頼ってくれるってことは嬉しいから。そんなきっかけでも仲良くしてくれたら嬉しいし、むらちゃんみたいな友達もできたし…」

 「武藤ッチ」



 
 へへへと、照れ笑いして頭をかく横顔が年齢のわりに無邪気だ。


 そんなひまりの顔をジッと見下ろし、美紀が複雑な顔をした。




 「1年の時は被ってる授業もなかったし、遠目でしか見かけたことなかったから、武藤ッチのこと誤解してたかも」

 「うん?」




 美紀の苦笑する気配に顔を上げる。




 「苦学生なら、医学部や法学部はけっこういるけどさ」

 「そうだね」




 国民総中層階級と言われる日本でも、やはり格差はある。


 資産状況の違いではなくっても、どこの地域に住んでいるか、それだけでも選べる選択肢の幅が変わってくるからだ。


 同じゾーンの範囲内にいる家庭の子達でも、やはり東京在住の人間と地方在住の人間ではまた違うだろう。


 ひまりはその口だ。


 親は中産階級、けれど地方出身で、どうせ苦学生をするならと東京に出てきた。


 その選択が正しかったかどうかは、まだ判断はつかなかったが、少なくてもひまりに後悔はない。


 父親の威圧に負けて、妥協していたら後悔していただろう。




 「武藤ッチって愚痴らないし、愛想はいいけどどこか皆に一線を引いてる感じだったからさ。ガリ勉の秀才で、お高く止まってるようにも見えたかな」





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