パンプスとスニーカー
 それはそうだろう。


 親の援助など受けてもいない苦学生の身。


 ほとんど荷物らしい荷物などないとは言え、よもや火事に見舞われるなんて予想していなかったのだから、ほとんど着の身着のまま、大学に持っていったトートバックとリュックに入っている荷物、財布の中身、それだけがすべてだ。


 …たしかお財布にまだ、2万円くらいある。


 いつもは1000円単位でしか財布に入っていないのだが、昨日ちょうどバイト代が出たことで、以前から欲しいと思っていた法律の参考書を何冊か仕入れようと財布にいれていた。


 バイトが長引いて本屋にいけなかったのがせめてもの幸いだったか。


 …でも、昨日銀行で下ろすのをやめて、今日にしておけば。


 せめて、銀行のカードは救えたのにと歯噛みする。


 カードの再発行にしてみても1~2週間は有にかかるというのに、印鑑から何から何までないことを考えると眩暈がした。




 「どうしよう…」

 「…えっと、武藤さん、ご実家は?」





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