パンプスとスニーカー
 ドキドキドキ、ドキドキドキ。


 緊張と恥ずかしさに、心臓が今にも喉から飛び出して、脳天から血を噴き出しそうだ。


 六本木ヒルズのホテルの前で、それらしいことを仄めかされた時には動揺するばかりで、とてもではないけれど彼の誘いに応えることなんてできそうにもなかったというのに、武尊の苦しそうな…でも、彼女を気遣って笑ってくれるその気持ちに胸がキュッと痛くなって、彼の腕を掴んで引き止めずにいられなかった。


 …武尊が好き。


 …武尊ともっと一緒にいたい。


 ひまりだって、子供じゃないのだ。


 男の人と付き合って、ただおしゃべりして手を繋ぐだけが全てだなんて思ってはいなかった。


 これまではそうした機会がなかったというだけで、もちろんそういうことに対する興味だってある。


 でも、そういうことじゃなかった。


 ただ好きな人と一緒に過ごしたい。


 もっと、彼のことを知りたいというシンプルな気持ち。


 それを突き詰めた結果が、素肌で触れ合って互いの温もりを分け合うということなら、とてもステキなことだと思う。




 「ひま、無理しなくていいんだよ?」

 「……無理じゃない」




 まるでスケコマシの代名詞のように言われている男が、気遣ってくれる言葉。


 …信じられる。


 武尊の気持ちをいつまで惹きつけていられるのかなんて、そんなつまらない心配で、今感じているこの想いや彼の気持ちを台無しにしたくなかった。


 そんなに臆病なんかじゃない。




 「ひまっ!」




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