パンプスとスニーカー
 気がついたら抱きしめられていた。


 小柄な彼女をすっぽりと包み込む大きくて…逞しい胸。


 ドキドキするのに、それがイヤじゃなくて、その温かさに安心できるのに、でもやっぱりソワソワと落ち着かなくって…胸がときめく。


 …いい匂い。


 大学に入って、初めて武尊や壮太のように、なまじな女子よりオシャレな男の人がいることを知った。


 それまでの彼女は、単純に香水やコロンなどは女の人しかつけないものだと思っていたから。


 今ではこの武尊の匂いにすっかり馴染んで、…うっとりとしてしまう。




 「ひま、好きだよ」

 「…う、ん」

 「好き」

 「…あたしも、好き」




 武尊に抱きしめられたまま、好きだと何度も囁かれて、いつのまにかひまりも呟いていた。


 好き…。


 いつも興味なさそうに彼女を素通りしていた冷たい目が柔らかく綻んで、優しく笑ってくれる彼が好き。


 …武尊のことが好き。


 頬にあてられた手に顔を傾けられ、落ちてきた彼の唇を受け止め、ギュッと目を瞑った。

 チュッ、チュッと軽いリップ音を立てて、何度も何度も角度を変え、柔らかな唇が彼女の唇に優しく触れては離れて、彼女の顔中にキスの雨を降らせる。


 「……ひま、俺の部屋に」




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