パンプスとスニーカー
 「行こ?」

 「…うん」




 手を差し出せば、もう躊躇なく握り返してくれる彼女に微笑んで…。




 「ずっと図書館にいたの?」

 「ん~、3限の途中あたりまでは、壮太や村尾さんとお茶してたかな」

 「最近、藤宮君とむらちゃんってよく一緒にいるよね?」

 「まあ、元々幼馴染みだし」




 仲も悪いわけではなかった。


 けれど、たしかに幼い頃ならばともかく、それほど今は接点があったわけではなかったらしく、会えば立ち話するくらいなものだったのだが、ひまりと武尊の付き合いが始まってからよく一緒にいるようにも思う。


 …あいつらも不思議な関係だよな。


 ひまりとは図らずも‘友達’スタートだったが、元々武尊は男女の友情には懐疑的だった。


 …まあ、あいつらのことはあいつらに任せるさ。


 ひまりとの付き合いは順調。


 壮太たちに断言した言葉に嘘はない。


 精神的には満たされ、たしかにこれまでになく、充実した毎日と言えなくもなかったけれど、しかし、その分だけ鬱屈を持て余してもいた。




 「…武尊?」

 「ん?なに?」

 「ううん、急に黙り込んじゃったから、どうしたのかと思って」

 「いや、どこでお茶しようかなって思ってさ。ひま、どっか希望ある?」

 「そうだねぇ。今日はカフェラテの気分だから、ほら、駅前のあそこ、この間初めて行ったお店、あそこでもいいかな?」

 「いいよ、ご希望に従いましょう」

 「ふふふ」




 そんなふうにふざけあいながら、手を繋いで歩く。


 …そうなんだよなぁ。


 壮太などは、彼女が大人しいのをいいことに、武尊お得意の強引押しで押し切ったのではないかなどと冗談を言っていたが、ひまりは大人しそうな外見に反して、かなり自己主張のハッキリしたタイプだ。


 普段どうでもいいことには、わりに相手に合わせるので、勘違いをしている人間もいるだろうが、人間考察には自負のある武尊からすればまったく意外ではなかった。


 …けっこうイヤなことはイヤってハッキリ主張するし、ズバズバ言うところもあるよな。


 第一、そういう人間でなくては、とてもではないが弁護士や検事、裁判官など務まらないし、志望もしないだろう。


 武尊にしても、本気で壮太たちに相談をしたかったわけではなかった。


 …まさかな。この俺が、手を出しあぐねてるだなんて、どのツラして言えるかっつーの。




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