パンプスとスニーカー
第2章 鬼が笑う
「ねぇ、コーヒー、奢らせてくれない?」
最初、ひまりは自分にかけられた声だと気がつかなかった。
が―――、
ガガァッ。
鈍い音を立てて、長方形の図書館机の反対側の椅子を引いた男が、ずずっと目の前まで伸び上がってきて、ぎょっと仰け反る。
驚いて顔を上げれば、知っている人物ながらなんの関わりもない男が、自分の目の前でニコニコと愛想よく笑っている理由がまったく思いつかない。
「えっと?」
「武藤さんだよね?」
「ええ」
名前を言い当てたことを褒めるべきか、一年間も同じ教室で勉強をしていたというのに、いまさら名前を確認してくることに憤慨するべきか迷って、結局ひまりは曖昧に頷くに留めた。
…って、いうか、この人、なんであたしなんかに声かけてくるわけ。
右見て左見て、再び顔を正面へ。
あらためて見回してみるまでもなく、唯一の共通の友人である美紀の姿はここにはない。
「コーヒー、嫌い?」
「………いえ」
「じゃ、俺、美味い店知ってるからさ。一緒に行こうよ」
最初、ひまりは自分にかけられた声だと気がつかなかった。
が―――、
ガガァッ。
鈍い音を立てて、長方形の図書館机の反対側の椅子を引いた男が、ずずっと目の前まで伸び上がってきて、ぎょっと仰け反る。
驚いて顔を上げれば、知っている人物ながらなんの関わりもない男が、自分の目の前でニコニコと愛想よく笑っている理由がまったく思いつかない。
「えっと?」
「武藤さんだよね?」
「ええ」
名前を言い当てたことを褒めるべきか、一年間も同じ教室で勉強をしていたというのに、いまさら名前を確認してくることに憤慨するべきか迷って、結局ひまりは曖昧に頷くに留めた。
…って、いうか、この人、なんであたしなんかに声かけてくるわけ。
右見て左見て、再び顔を正面へ。
あらためて見回してみるまでもなく、唯一の共通の友人である美紀の姿はここにはない。
「コーヒー、嫌い?」
「………いえ」
「じゃ、俺、美味い店知ってるからさ。一緒に行こうよ」