パンプスとスニーカー
 まだ、いいとも言っていないのに勝手に納得して、椅子から立ち上がられてしまう。


 それだけなら勝手にすればいいが、長い腕が彼女の横にまで無造作に伸ばされて、隣の椅子に置いておいたトートバックを攫われてしまった。




 「ちょっと!」

 「ああ、それもしまう?」

 「いや、ほとんど図書室の資料だから」

 「そ。じゃ、行こうか」

 「…はあ」




 当たり前のように言われ、強引な態度に弱い日本人のさがで、ついひまりも頷いてしまう。


 すぐにハッと我にかえったものの、ゴーイング・マイ・ウェイな男はとっくに背を向け歩き出していた。




 「いやいやいやいやいや、そうじゃないでしょっ。って、あたしのバッグ―――ッ!!」




 慌てて筆記用具をリュックに片付け、資料を近くのラックにしまい込む。


 すぐさま、さっさと先に行ってしまっている長い足の主を急いで追いかける。




 「ちょっと、待ってっ!」




 ホンの少しの間のはずだったのに歩幅の違いか、追いついた頃には、武尊はすでに図書室の出入り口の傍まで来てしまっていた。




 「もうっ!待ちなさいったら!!」




 なんとか自分のバッグにしがみついて、わけのわからない行動をとる男の動きを引き止め、ひまりはゼイゼイと荒い息を整え唾を飲み込んだ。




 「も…う、信じられない…ハァハァ。なんで、あたしが…よく知りもしない、あなたと、ハァ、コーヒーなんか飲みに行くのよ。はぁ~~~」




 しかも、ついさっきまで知人であることも信じられないほどに冷たく無関心な態度を貫いていたくせに、だ。


 このいきなりの方向転換はどうしたことかと、ひまりが胡散臭さを感じても不思議ではないだろう。


 …まさか、新手のナンパとか?


 思いついて、すぐに自分で否定する。


 こんなチャラチャラした男に興味を持たれる自分ではないことは、重々承知していた。


 …別人種よね。


 ひまりの警戒心をよそに、武尊の方はまるで友達みたいな馴れ馴れしい態度。




 「別にいいじゃん?これでも同じ授業をとってたこともあるクラスメートなんだし?」

 「…………」




 その同じ授業をとっていた頃でさえほとんど話したこともないのに、それこそほとんど接触もなくなった今頃になって何を言い出すのかとひまりの疑念が倍増した。




 「せっかくのお誘いだけど、あたし、ついて行けないから」





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