パンプスとスニーカー
 「もしかして、警戒してる?」

 「当たり前でしょッ!?」




 相手は大学内でも悪名高いプレイボーイな男なのだ。


 しかも、この尋常じゃない強引な態度。


 よもや自分のような地味な女を相手に、その悪癖を発揮するとは思えないけれど、友人でもない人間からの誘いにおいそれと乗るような性分ではなかった。


 冷淡から、友好的へ。


 あまりにもあからさまな態度の変化を不審に思わない人間などいないだろう。


 ナンパではないにしろ、何も目的がないなどとは、ひまりも思えなかった。




 「あのさ、目立ってるよ」

 「え?」

 「ここ図書室」



 気が付けば、興奮して声が大きくなってしまっている。


 武尊の言葉に、あ、と口を抑えて周囲を見回せば、それほど混雑してもいないが、閑散としているわけではない室内の学生たちの視線が、興味津々にこちらへと集まっていた。


 …うひ~。




 「そんなに警戒しなくても、頼みたいことがあるだけなんだけど?」

 「へ?」

 「話をするのにコーヒー飲みに行こうって誘っただけで、君自身に興味あるわけじゃないって、最初に言っておいた方が良かったかな?」




 意外だったと言わんばかりの表情に、自分の自意識過剰を指摘されているのだと理解して、思わず真っ赤になってしまった顔を片手で隠す。




 …そ、そうだよね。




 「て、ことだから。わかってもらえたら悪いけど、すぐそこの喫茶店まで付き合ってくれないかな?ここで話すにはちょっと事情的に込み入っててさ。できればあまり人に知られたくないんだ」

 「………了解です」





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