パンプスとスニーカー
 「は?ごめん、もう一度言ってくれる?」




 案内されたのは、ひまりも知っていたけれど、懐具合的に敷居が高くてめったに来たことがない喫茶店で、コーヒー党の美紀もひと押しの店だった。


 人に聞かれたくない話…と前置きがあったとおりに人目を避けて、店の奥まった場所に陣どった武尊が言い出したことが信じられずに、思わずもう一度問い返してしまう。


 ひまりの驚愕もわかっていたのだろう。


 胡散臭そうな彼女の視線をものともせずに、優雅な仕草でコーヒーを飲む武尊の姿は様になっていて、つい彼に興味のないひまりでさえ、うっかりすると見惚れてしまいそうになる。


 そして、そんな女性心理を、武尊自身も十分に自覚して利用しているのことが、恋愛ごとには疎いひまりにも十分に察せられた。


 ようは、一々カッコつけが激しいというか、キザったらしいのだ。


 しかし、それがまた似合ってしまっているから、バカな女たちもコロッと簡単に引っかかってしまうのに違いない。


 …やっぱりあたしとは、もっとも遠い人種だわ。


 しみじみ思う。




 「君って弁護士目指してるんだろ?それとも検事?裁判官じゃなかったよな、たしか」

 「え?」




 ひまりの問いかけとは、180度違う話題の方向転換。


 ポカンとするひまりに、武尊が小さく失笑する。




 「すごい思ってること丸分かり」




 よく知らない人間に笑われて、ムッとする。




 「何を思ってるって?」

 「俺のこと、救いようのないスケコマシとか、カッコつけしいな奴とか思ってるんじゃない?」

 「…………」




 さすがに本人を前に肯定はできないが、白々しく否定をするのも慮れて黙り込む。


 ようは沈黙が答えで、やっぱり正直者だと武尊にまた笑われてしまった。




 「そんなんで法廷に出て、ちゃんと駆け引きできるわけ?」

 「よけいなお世話です」




 失礼な物言いに、ひまりもツンとして返す。




 「それより、さっき言ったことってどういうこと?えっと…その、あたしに」

 「俺の恋人になってくれない?」





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