パンプスとスニーカー
 「…………」




 やっぱり聞き違いではなかったらしい。


 しかし武尊の雰囲気は、とても恋の告白をしているようには思えなかったし、彼女を見る目に甘さなど欠片も見えない。


 …あいかわらず、人を見下したような嫌な態度。


 たしかにひまりは人嫌いする方ではなかったけれど、好き嫌いがないわけではないし、自分を見くびって無礼な態度をとる輩におもねるつもりもなかった。




 「どういうつもりか知らないけど、そんな話ならお断りします。あなたみたいな人のお遊びに付き合えるほど、あたし暇じゃないし」

 「司法試験現役合格目指してるんだもんな。で、それが可能なくらいに大学でも期待されている優秀な特待生」




 美紀や沢たちのように、寛容に受け入れてくれる友人たちももちろんいたが、いくら上手くやろうと心がけていても、付き合いが悪いひまりはどうしてもやっかまれたり、妬まれたりすることも少なくなかった。


 こちらに非はなくても、悪意を持たれることはあるものだ。




 「イヤミ?」

 「いや、本当のことだし、みんなが言ってることだから」




 肩を竦めて、またニッコリと微笑みかけられる。


 そうされていると、日頃の無愛想が嘘のように友好的に見えて、やはりハンサムはお得だと冷静に思うこととは別に、どうしても胸が動悸打ってしまう。


 …誘惑されてるんだろうか。


 まさか、とは思っている。


 それでもひまりだって年頃の女なのだ。


 見目麗しい男に愛想良くされて、悪い気分はしない。


 たとえ、実はない相手だとわかってはいても。


 つい好奇心と強引さに負けて、武尊のような男についてきてしまったことを後悔する。


 …失敗したかな。ただお茶するだけでも、あたしの手に負える範囲の人じゃないかも。




 「カラかわないでよ」




 ムッとして睨みつけたのも、我ながら虚勢だという自覚がある。


 けれど、突っ張った態度を貫かなければ、ドキマギしていいように弄ばれてしまいそうな危機感を感じ始めていたのだ。


 不機嫌な顔で配膳されているコーヒーを啜るひまりをジッと見守り、武尊が苦笑した。


 今度は妙にもったいぶった態度ではなかった。




 「ふっ、ごめん。武藤さんを怒らせるつもりじゃなかったんだけど。たださ、なんか意外な反応だったから、つい突っついて見たくなったかな」

 「……は?」





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