パンプスとスニーカー
 「なにそれ」




 怒って席を立つべきか迷って、だが、悪いと片手で謝られてしまった。


 それで仕方なしにひまりも気持ちを治めて、小さく息を落とす。


 とりあえずは気を取り直して、無難な話題を探した。




 「ここのコーヒー、本当に美味しい」

 「でしょ?」

 「でも…あたしは紅茶党なんだけどね」

 「はは、そうだったんだ。それは失礼。なんか、武藤さん、眠そうだったらさ」

 「…………」




 その通りなので反論はやめた。




 「カラかったみたいな態度だったのは、ホント、悪かったよ。突っついてみたのはさ、声をかけてはみたものの、俺も正直、武藤さんがどういう人かわからなかったから、様子見したっていうか、どういう反応するかで判断したかったんだ」

 「判断?」

 「そう。俺の恋人になってもらうにあたっての」




 今、このやたらと綺麗な顔をした男は、カラかって悪かったと謝っていなかっただろうか。


 不信な顔をするひまりに、苦笑して、あらためて武尊が居住まいを正した。




 「実はさ、ちょっと事情があって、君に俺の恋人のフリをして欲しいんだ」

 「フリ?」

 「そう、フリ。だから、俺に惚れるような子だったら、かえって厄介だなって思って、君を試したわけ」




*****





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