パンプスとスニーカー
 …合格かな。


 ムッと顰めたひまりの顔はいかにも不本意そうで、ここまで武尊に無関心な女の子も珍しいくらいだ。


 …まあ、もともと、こういうド真面目女には、俺って受け悪いしな。


 だからこそ、祖母のお眼鏡に叶うというものかもしれなかったけれど。




 「ちゃんとバイト代払うし?」

 「バイトって言われても、そんなわけのわからないバイトとか…」




 断られる前にと、ひまりの機先を制してテーブルに乗り出し、指を三本突き出した。




 「3万円」

 「……えっ!?」

 「今日これから買い物とちょっとした野暮用に付き合きあってもらって、俺の家族と『恋人』として夕食を一緒してもらうだけで、3万円バイト代払うよ」

 「さ、三万円ッ!?」




 ポカンとした顔がなんだか子供じみて、中々に可愛い。

 
 普通にいう美人とか可憐とかいうのとは違うが、和まされるような愛嬌がある。


 こうしてマジマジと間近で見てみれば、たしかに壮太の言っていたとおり、そう不細工な女というわけでもなかった。


 …ま、顔は関係ないか。


 どうやらアレコレ思い悩んでいるらしい相手から身を引いて、椅子の背もたれに片肘を乗せ両足を組んで寛ぐ。


 いわゆるシンキングタイムというやつだ。


 畳み込むようにして丸め込む手もあるが、自分の内実も話すことになるのだ、金を介在にした取引とは言え、やはりここはある程度の信頼というものも必要だろう。


 …同じ大学のヤツだしな。




 「どう?大して難しいことだと思わないけど。たった一日…それも、今から夜までの数時間を我慢して、俺の小芝居につきあってくれればいい。もちろん、君のデメリットになるようなことは一切ないことだと保証するし、俺に変な下心もない」





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