パンプスとスニーカー
 「そんなこと、言われても」




 眉を寄せ、チラリチラリと武尊を見ては、再び自分のカップへと視線を移し、思案している顔は真剣に悩んでいるようだ。


 即座に否定されなかったことに、武尊は脈を感じていた。


 人間ダメだと思ったら、最初から聞く耳を持たないものなのだ。


 特によくも知らない人間が言い出した突拍子もないことならなおさらだろう。


 それにひまりには即座に、武尊の申し出を拒絶できない切実な事情がある。


 そもそも、武尊はその事情をある程度知っていて、ある意味その弱みにつけ込むカタチで話をもちかけているわけだから、もちろんある程度の勝利をあらかじめ目算してもいた。


 …俺ってけっこう悪党?でも、そうでもなきゃ、とてもこんな話、おいそれとはできないよな。




 「もちろん、このことは周囲には内密にしてくれることが条件だけどね。引き受けてくれるかな?」




 しかし、敵もさるもの…そう安易には頷いてはくれないらしい。


 真っ直ぐに顔を上げ、ジッと武尊の目を見るひまりの視線は、彼の中の真実を暴こうとするかのように真剣で鋭かった。




 「なんかやっぱり、聞けば聞くだけ怪しいバイトな気がするんだけど?」





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