パンプスとスニーカー
 財布の中身を数えながらの買い物は、当然締めがちだ。


 とはいえ、さすがのひまりも食欲がなくって、昨晩泊まったネットカフェから大学への通学路の途中、コンビニで買ったオニギリと牛乳が唯一の朝の食事という寂しさが哀愁を深める。




 「むとぴょ~んっ!」




 調子っ外れの女の声に振り返れば、よく履修科目で一緒になる同期の美紀が駆け寄ってくる。


 わりに美人で派手目な見た目のわりに、気さくな性格が堅物の自覚があるひまりとも気が合った。




 「おっは」

 「おはよう」

 「…なんか、朝から疲れてない?目の下にクマがあるよ」

 「はは…ちょっと、いろいろあってね」




 …ちょうど良かったかも。


 昨日から続くこの鬱憤と屈託を誰かに話してしまわなければ、どうにもこうにもモヤモヤして、とてもじゃないけど勉強など手につきそうにもない。


 そんな気持ちが美紀にも通じたのだろう。


 好奇心たっぷり目をきらめかせ、いくぶんくたびれた風情のひまりの全身を、上に下にと眺め回して顔を寄せてくる。




 「なになに?聞いてあげるから、お姉さんにドーンと相談しちゃいなさい?」

 「実はさ…」




 言いかけて、美紀の背後から近づいてくる二人の人影に気が付く。




 「はよ、武藤さん」

 「あ、おはよう、藤宮君」
 一人はたまに美紀とツルんでるところを見かける藤宮壮太で、相変わらずのチャラさだが、あんがい話してみると悪い男ではないし、愛想がいいから会えば挨拶やちょっとした雑談くらいは交わすこともある。


 …その横はたしか。






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