パンプスとスニーカー
 「武藤さん、おはよ」

 「…おはよう」




 目が合ったので挨拶しあったけれど、あきらかに彼女を一べつした目はひまりを値踏みしていて、お眼鏡に叶わなかったらしくアッサリと視線を外してあとは一貫して無関心だ。


 一見愛想がいいが、興味のない相手にはとことん冷たい本性が透けて見えて、ひまりなどはこの王子様面した男が苦手だった。




 「武藤さんって、去年、高島教授の講義履修してたっけ?」

 「え?うん」

 「武尊と同じ時間とってたよな?」




 真横の男に問いかけるも、武尊の方は憶えていなかったのだろう。




 「そうだったっけ?」

 「ひでぇな、休んだ時、お前、武藤さんのノートを借りたこともあっただろ?」

 「…うーん」




 不義理な話だが、武尊が憶えていないのも仕方がない。


 ノートを借りた貸したの話にしても、たしか又借りにすぎなかったからだ。


 特待生で真面目なひまりのノートをアテにする学生は多く、ひまり自身も付き合いが悪い自覚があったので、せめてもの社交の一つとしてノートの貸出は快く引き受けていたから。


 ひまりの方では、さすがにこの目立つ二人の男のことはそれなりに知ってはいた。


 …興味ないけど。




 「実はさ、俺、今年、高島教授の自由科目とっててさ。武藤さんが履修してた科目と被ってたら、ノートを参考に見せてくれない?」





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