さよならの準備はできている
どの教室も騒がしく、パニックに陥っているようだ。
それも当然。
脱獄した"殺人犯"がこの街に来ているのだから。
でも私は、想像していたよりも落ち着いていた。
3階から階段を下りて、1階の廊下を歩く。
姉の死に顔は、今でも鮮明に思い出せる。
温度のない、白い顔。
もう二度と開かない、閉じたまぶた。
姉のピンクのマニキュアを爪に施した細い指、手、腕……
初めて見た死体は綺麗で、マネキンみたいだと思った。
ああ、もう姉はいないのだ。
そのとき私はそう思った。
ーーーー
校舎の入り口の下駄箱は、しんと静まりかえっていた。
私は歩みを止めず、ゆっくりと歩く。
「…いるんでしょう」
私は言う。
居ないわけがない。
さっき校舎に入っていくのが見えたからだ。
ーーガタッ…
私の後ろの下駄箱の裏から音が聞こえた。
「榎田…ううん、"拓くん"…」
そこにはボロボロの服を着た榎田が立っていた。
右手にはナイフを握っていた。
昔より痩せて、顔がやつれている。
「さ…や……?」
榎田は私を見て目を見開いていた。
声からもわかったが震えているようだ。
「何を言っているの?わたしは"栞"だよ」
榎田は戸惑っているようだった。
「うそだっ……!」
この6年、刑務所に入って頭がおかしくなったのだろうか。
榎田はずっとぶつぶつと呟いている。
それも当然。
脱獄した"殺人犯"がこの街に来ているのだから。
でも私は、想像していたよりも落ち着いていた。
3階から階段を下りて、1階の廊下を歩く。
姉の死に顔は、今でも鮮明に思い出せる。
温度のない、白い顔。
もう二度と開かない、閉じたまぶた。
姉のピンクのマニキュアを爪に施した細い指、手、腕……
初めて見た死体は綺麗で、マネキンみたいだと思った。
ああ、もう姉はいないのだ。
そのとき私はそう思った。
ーーーー
校舎の入り口の下駄箱は、しんと静まりかえっていた。
私は歩みを止めず、ゆっくりと歩く。
「…いるんでしょう」
私は言う。
居ないわけがない。
さっき校舎に入っていくのが見えたからだ。
ーーガタッ…
私の後ろの下駄箱の裏から音が聞こえた。
「榎田…ううん、"拓くん"…」
そこにはボロボロの服を着た榎田が立っていた。
右手にはナイフを握っていた。
昔より痩せて、顔がやつれている。
「さ…や……?」
榎田は私を見て目を見開いていた。
声からもわかったが震えているようだ。
「何を言っているの?わたしは"栞"だよ」
榎田は戸惑っているようだった。
「うそだっ……!」
この6年、刑務所に入って頭がおかしくなったのだろうか。
榎田はずっとぶつぶつと呟いている。