さよならの準備はできている
ーーカラン……

"榎田の手から"ナイフがこぼれ落ちる。

「なん…で……」

床に倒れた"榎田"の腹部からは、止まることなく血が溢れて床に広がる。

「なんではこっちよ」

私は榎田を上から見下しながら、話を続ける。

「何で"栞"って呼んでくれないのよ」

頬に飛び散った血を指で拭う。

「私は"ずっと待ってたのよ"?あなたが来るのを6年も」

「なにを…いって……ゴフッ!」

榎田は口から血を吐く。

「何で私を見てくれないのよ。せっかく邪魔だった"お姉ちゃんを殺したのに"」

そう。
私は、初めて会ったときから"拓くん"が好きだった。

初めて会ったときにはもうすでに姉の彼氏だった。
ずっと報われない片想いをしていた。

でも姉が高3の7月18日。
私はその日、姉に衝撃的なことを告げられた。

『わたし拓くんと別れたの』

私は目を丸くした。

『何で……?』

『拓くんには"受験に専念したいから"って言ったんだけどさ、実はね…』

姉は私の耳元でこそっと耳打ちした。

『拓くんに飽きちゃったから、違う人と付き合うことにしたんだ』

姉の自分勝手なその言葉に、私は心を繋ぎ止めていた最後の糸がプツンと切れる音がした。

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