さよならの準備はできている




私は白い便箋にびっしり書かれた文章を読み終えて、机においた。

「それが佐藤咲弥殺人事件の真相だ」

目の前の桜田刑事は、ふうっと深いため息をついた。

「ずっとそばにいたのに、全然わかりませんでした」

私は下をむいて、手を膝の上においた。

「栞ちゃんの机の引き出しから見つかった"遺書"。澪ちゃんには、読んでおいて欲しかったんだ」

栞の榎田への愛情は、あの日から歪みだした。
自分の姉を殺すほど、栞は榎田を愛していたんだ。

「栞を、助けられなかった」

栞と廊下で話したあと、嫌な予感がした私は栞を探し下駄箱に来てみると、そこにあったのはお腹にナイフの刺さった榎田と、首をナイフでかききった栞の遺体と、血だまりだった。

私のすぐあとに桜田刑事が到着。
二人で呆然とその光景を前に立ち尽くしていた。

てっきり私は、栞は榎田に殺されたのだと思った。
しかし桜田刑事は違ったようで、

『やっぱりか…』

そう呟いた。

「榎田が脱獄したあと、私は6年前の事件の資料をもう一度洗い直していたんだ。そうしたら、この真実にたどり着いた。だがしかし、気づくのがおそかったようだ」

あまりにも信じがたい真実に、私は未だに信じられなかった。

「栞は、これで幸せなんでしょうか」

私にはわからない。
栞がここまでして榎田を愛す理由が。

「ずっとすきだった人と一緒になる方法が、これしか思い付かなかったんだろうな」

私は席を立ち、桜田刑事に一礼する。
そして部屋をあとにした。

< 14 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop