さよならの準備はできている
私は白い便箋にびっしり書かれた文章を読み終えて、机においた。
「それが佐藤咲弥殺人事件の真相だ」
目の前の桜田刑事は、ふうっと深いため息をついた。
「ずっとそばにいたのに、全然わかりませんでした」
私は下をむいて、手を膝の上においた。
「栞ちゃんの机の引き出しから見つかった"遺書"。澪ちゃんには、読んでおいて欲しかったんだ」
栞の榎田への愛情は、あの日から歪みだした。
自分の姉を殺すほど、栞は榎田を愛していたんだ。
「栞を、助けられなかった」
栞と廊下で話したあと、嫌な予感がした私は栞を探し下駄箱に来てみると、そこにあったのはお腹にナイフの刺さった榎田と、首をナイフでかききった栞の遺体と、血だまりだった。
私のすぐあとに桜田刑事が到着。
二人で呆然とその光景を前に立ち尽くしていた。
てっきり私は、栞は榎田に殺されたのだと思った。
しかし桜田刑事は違ったようで、
『やっぱりか…』
そう呟いた。
「榎田が脱獄したあと、私は6年前の事件の資料をもう一度洗い直していたんだ。そうしたら、この真実にたどり着いた。だがしかし、気づくのがおそかったようだ」
あまりにも信じがたい真実に、私は未だに信じられなかった。
「栞は、これで幸せなんでしょうか」
私にはわからない。
栞がここまでして榎田を愛す理由が。
「ずっとすきだった人と一緒になる方法が、これしか思い付かなかったんだろうな」
私は席を立ち、桜田刑事に一礼する。
そして部屋をあとにした。