さよならの準備はできている
「その脱獄した犯罪者が向かっていると思われる場所が、この街らしいの」

澪ちゃんはその言葉を聞いて固まった。

「でねその人"榎田拓哉"って人で、6年前に付き合っていた"佐藤咲弥"っていう女子高生をメッタ刺しにして殺したんだって。怖いよね」

「……」

澪ちゃんは何も話さない。
ちらっと見ると、下をむいていて顔が青ざめている。

なぜなら、その名前に聞き覚えがあるからだ。

そう。
"榎田拓哉"は、まさに私の姉"佐藤咲弥"を殺した張本人だ、と。
その"榎田拓哉"が、まさにいまこの街に向かっている。

「そういえば佐藤さん、被害者の人の苗字と同じだね」

私は心配そうにこちらを見る澪ちゃんに頷いてから、質問に返す。

「…佐藤なんて日本で一番多い苗字なんだから、偶然よ」

私は笑った。

「だよね、まさかね」

みんなは知らない。

姉が亡くなった当時私と澪ちゃんは小学生で、世間の目を気にして小学校から離れた学校を受験したので、同じ小学校の同級生は澪ちゃん以外この高校にはいないはず。

「栞…」

澪ちゃんは怯えた表情で、私を見ている。

「あの人もしかして、栞のこと…」

小さな震えた声で私にささやく。
そんな澪ちゃんに私は言う。

「"その時"がきたみたい」

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