さよならの準備はできている
私は通話を切ると、教室の後ろのドアが開いた。

「栞…?」

私を探してか、教室から不安そうな澪ちゃんが顔を出す。

「澪ちゃん」

「どうしたの、いきなり教室出ていって」

授業どころではなくなった教室でも、確かに出ていったら不思議がるだろう。

「桜井刑事から電話がきたの」

私は正直に澪ちゃん告げる。

「桜井刑事って、咲弥さんの事件を担当してくれた刑事さんだよね」

「うん」

「何て、言ってたの?」

「今からこっちに来るって」

それを聞いて、澪ちゃんの表情がみるみる青ざめていくのがわかった。

「栞っ…!逃げようっ!」

澪ちゃんが今までにないくらい声を荒げた。

「このままじゃ栞も…咲弥さんみたいに殺されちゃうよ!?」

澪ちゃんは昔からずっと、私のそばにいてくれた。
姉が亡くなったあと、クラスのみんなは私にどう接してよいかわからず、距離を置いていた。

でも澪ちゃんだけはずっと変わらずそばにいてくれたんだ。

私は澪ちゃんの目をまっすぐ見て、手を握った。

「澪ちゃん"ごめんね"。"今までありがとう"」

そう言って私は笑う。
ちゃんと笑えていたのかな。

「え…?」

戸惑う澪ちゃんの手をすっと離し、私は背を向けた。

澪ちゃんを巻き込むわけにはいかない。
これでいい。

だって"今日で私はいなくなる"から。
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