月の光に照らされて
遠くから音とともに崩れ去る建物に、怯えながらもそちらの方にゆっくりと向かう。

背後に崩し逝く建物を映しながら人影がこちらに近付き、それは大切な何かを護るために代償を省みない姿で、歩いてくる。

フェイと強く叫びながら走り出すミルの上から、今切り裂いた建物が崩れ落ちてくる。

だが、ミルは決して止まらず、必死に駆け寄って来た。


「ミル!」



我を戻したのはミルが瓦礫の下敷きになる寸前で、颯爽と地を駆けてミルを抱き抱えて街の外れで止まった。


「………ミル。だいじょ…うぶか?」

「フェイの方が大丈夫なの?こんなに怪我して…、重傷じゃない」

「これぐらいは…。………ミル、どうした?」


彼女は泣いていた。泣き顔を見られないように俯き、手で涙を拭っていた。フェイの身体に頭を付けてよっ掛かる。フェイは頭にポンと手を置いて、撫でる。


「もう、こんなことはしないよ。やっぱり、自分の気持ちに正直になる。

ミルの傍に、ずっといる。そうしたいから…」

「……遅いよ、馬鹿」


彼女は抱き着くと嬉しそうに笑みをこぼす。その時の涙は、哀しみの残りであったのか、嬉しさからまた溢れ出したのかはわからない。ただじっと、その時を過ごした。







「フェイと二人で戻ったら、怒られるかな?」

「そんなことさせないな。一応は娘の命の恩人なんだから」

「兼、恋人。それ忘れたら許さないからね」

「忘れないさ。自分を偽ることはもうしないんだから」


この闇の中を帰ることはせず、雲が晴れた月の下で二人は寄り添っていた。今のこの時間が、これから先の始まりなのだろうと…。

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