月の光に照らされて
―――………―――

「君だあれ…?」

「………フェイ」

「フェイ、一緒に遊ぼう!」



夢に見た過去の記憶。なんでそれが今という眠りの中に蘇ったのかは、誰も理由を知るはずがない。ただ、彼女の夢にしては嬉しそうな笑みが広がり、ずっとその時のままでいたいという願いが強く感じられた。

でも、それは叶わぬ夢で、それを知ってしまった顔には涙が少し流れていた。目を覚ました時には乾いて痕になっていて、消えたフェイにまた少し涙が零れる。



「……フェイ、約束したのに…」


彼とは、ずっと傍にいると、どんなになろうとも、ずっと隣にいてくれると約束をしたのに…。彼は約束を破り、突然村から姿を消してしまった。



ベッドから身体を起こすと、開いていた窓から外を眺め、流れる雲を追いながら、自分自身の想いをさらけ出し、幻に見る彼の姿を見付けると、「フェイ!」と大きな声で無我夢中で叫んだ。



「お嬢様、どうされました?」


ノックの音もせず、ガチャリと開いた寝室の扉から、執事のグラウンが礼をして近付いてくる。


「なんでもないわ。

朝食の準備は調っていますか?」

「はい。今日はパンとラミュルのコーンスープでございます」

「ラミュルの!朝から気分が良くなりそうだわ」


涙の痕に気付かず、手を叩いて嬉しそうに笑う彼女に、執事は―――


「御着替えして、食堂に来て下さい。顔を洗うのをお忘れなく…」

「はい。直ぐに行きますわ」


執事は礼をして寝室から出ていった。彼女はクローゼットからワンピースを取り出すと、寝間着を脱いでそれを着た。

夢の後の悲しみはいつしか忘れ去り、今はラミュルのコーンスープで頭がいっぱいか、リズムをとりながら楽しそうに回っていた。



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